かなな著
・・・兄みたいなものだ。と、翔太は言ったのだが、優斗は“みたいな”という表現を、聞き落としていたのかもしれない。
おまけに親代わりとまで言ったのもあって、てっきり年上と勘違いしたのだろう。
「腹違いの兄なんだよ。俺の父親と、芽生の父親が同じなんだ。母親がほぼ同次期に妊娠して、俺達が生まれたって訳。」
スラスラと説明する翔太。
芽生は眉をひそめてしまう。
芽生と翔太は母親が姉妹だったので、従兄妹同士なだけなのだ。腹違いの兄妹なんてことはない。
(・・・それは嘘じゃん。そんな嘘、ついてもいいの?)
けれども翔太の言葉は、何か考えのあった上のはずだ。
彼がいい加減な性格ではないのは、芽生が一番知っているわけなので、ここは何も言わない方がいいと思って、ダンマリを決めておく。
「腹違い!・・・なんか凄い事情ですね。
母親同士で、揉めませんでしたか?」
にわかに信じがたい事実を突き付けられた顔をして、優斗が質問すると、
「俺の両親が、亡くなっているんだ。
そう言った事情が重なって、芽生の家の人に育てられて、彼女の両親には、返せないくらいの恩を受けて、今に至る。」
何か問題でもある?みたいな顔をして、シャアシャアと言いきった翔太の口調は、さすがなものだった。
「・・・そうだったんだ。それで俺達同い年・・・けど、芽生を挟むと、義兄さんってな感じになって・・。」
優斗は、翔太に対する喋り方について、決めかねるらしい。少しの間、考えこんでいたのだが、
「ややこしい!・・・翔太さん。始めに敬語使わせてもらったんで、このままの喋り方でいかせてもらいますよ。」
と言いきったものだから、今度は翔太が驚く番だった。
「言い方くらい、どうでもいいのに・・。意外に、固いんだな・・・。」
目を見張ってつぶやきながら、みるみる翔太の優斗に対する瞳の色が、変わってゆく。
「ええ、結構。要領悪いって言われますよ。見た目がこんななんで、誤解される事が多いんですけれどね・・。」
ため息つく様が、これまた妖しい雰囲気をたたえるものだから、翔太はつい言葉が出たらしい。
「苦労してそうだな・・。」
とつぶやいたものだがら、今度は優斗が瞳を輝かせる番だった。
「分かってくれますか!俺の苦しみ・・・。」
と、優斗が叫ぶと、
「なんだ、竹林。共学行って変わるんじゃなかったのか?」
と、男子生徒が口を挟む。
「どこ行っておんなじだよ。というより、孝徳の方がマシかも知れない。
・・・それより西田。こんな所で油売ってないで、練習はどうなってるんだ。
俺の記憶が正しければ、試合が近づいてノンビリ出来る状態ではないと、思うんだけど?」
優斗にさりげなく話を振られた西田は、愛想笑いそのものと言った感じの笑みをもらして、
「もちろん。この後、みっちりするさ・・あっと、北川。悪いけど俺、そろそろ行くわ。」
というと、アッという間に廊下を走り去ってしまう。
「・・・・。」
ポツンと残された三人は、妙にきまりの悪い沈黙が流れて、それを破ったのは翔太だった。
「お互いの自己紹介はすんだことだし・・・
では、教えてもらおうか。君達がここにいる理由
なぜここの生徒でない二人は、こんな場所にいるんだい?」
彼は、芽生達がここにいる疑問を、忘れてはいなかったのだ。
そう言った瞬間の彼の笑顔は、また違った意味でも壮絶だった。